玉川大学 学術研究所 田中敬一デザインプロジェクト
更新日:2024.06.18
海洋プラスチック問題をテーマとした作品展示・ワークショップ
2023年秋に、第8回横浜トリエンナーレの開催にあたって、横浜市資源循環局からのオープニング展示催事出展依頼を受け、玉川大学 学術研究所の田中先生は、海に関わる環境問題をテーマにした内容をまとめることにしました。田中先生は、内容を極力横浜の海の実態を把握したものにしたいと考え、横浜市港湾局の協力のもと、海洋での廃棄物の回収作業現場に出向き、展示やワークショップに用いる回収された廃棄物の選定などを行い、造形表現の原点としました。
横浜トリエンナーレという現代アートの国際展覧開催にちなんだ今回の展示の位置付けは、アート指向の来場者に対して、造形やデザインの背景に環境問題を織り込んでメッセージを発信する絶好の機会と田中先生は考えました。
田中先生の研究室では、3年前より、横浜、町田など近隣8つの自治体が取り組んでいる海洋プラスチックゴミ削減キャンペーンのメッセージ造形の制作依頼を受け、各自治体の巡回展示を行ってきました。横浜市での展示の際も、アート指向のメッセージ表現が、来場者に環境問題に関心を持ってもらうためのハードルを下げるという大きな効果に繋がりました。
横浜市はその実績を評価して、今回の国際的な現代美術展での展示にあたって、さらに田中先生の専門分野である光を使った空間表現を用いることにしました、こうした方向性を受け、田中先生はこれまで以上に見せ方としてのアート指向を明確に打ち出すことを志して準備を進めました。
展示内容は様々な分野に及びましたが、それらをアート表現に置き換えることで、見る人達に誤解を与えることのないよう常に留意しながら制作されました。例えば、廃棄タイヤが海底に沈むと内側に入り込んだヤドカリが、一生外に出られなくなることを造形化した展示物を作成する際には、タイヤ製造メーカー各社、日本のタイヤメーカーの業界団体オフィスなどへ出向き、展示内容について直接アドバイスを受け、業界の立ち位置に影響を及ぼすことがないかの確認作業を行ないながら進めました。
また生分解性プラスチック素材開発メーカー株式会社カネカの企画担当者などの、第三者的な視点も参考にして、常に展示内容の中立性の確保を欠かさないように心がけました。普段接することの出来ないB to B分野での専門家との制作作業は貴重な体験資産になり、創作活動の大きな原動力になっていったそうです。
これらの創作の流れは、複数の学部に所属する学生たちにも、共同作業を通じて経験させることによって、実社会での発表に際して直面する様々な事案を、実体験を通してのみ得られる活きた知見として、今後彼らが情報発信をする際の、重要な留意点の気づきに繋がっていきました。
田中先生は、今後の展開として、『今回は、光のアート表現で環境問題に関するメッセージを来場者へ伝える場を創作した。今後も変容していく様々な社会事象をモチーフに、光でしか伝えられない感動を誘引、没入する時空演出で、来場者が心地よさと解りやすさでストレスなく理解でき、そこから鑑賞者自身が今までにない新たなベクトルを見出せるような可能性を創っていきたいと思う。』と語りました。